私の好きな言葉の一つです。
スポーツなどでよく使われます。野球では、6回裏のA選手の三遊間を破る逆転タイムリー二塁打が圧巻であった。とか、ゴルフでは優勝者の15番の第二打がピン横30cmについたのが圧巻であったとか使われます。しかし私には少々の違和感を覚えます。
圧巻の語源は中国の1000年以上に及ぶ科挙制度に始まるようです。中国では国の官吏を登用するため、国のすみずみから優秀な人材を集める試験が行われてきました。
まず、地方での郷試。受験者は地方での極めて高い成績優秀者。合格率は100人に一人と言われています。これに合格すると挙人になります。挙人を輩出した家ではその門に<挙人の家>という高い旗を誇らしげに掲げることができました。
次に、各地で挙人になった一万人から二万人ものエリート達が、中央で会試を受けます。合格率は30人に一人。合格者を進士と言います。進士は晴れて高級官僚になる道に進むことができます。
会試に合格しても気を緩めることはできず、このスーパーエリートの進士集団2~300人の俊才が、今度は殿試という殿様の前での最終試験を受け、この試験の成績によって順位が決められます。上位3人のうち、三位が探花、二位が榜眼、一位が状元と言われます。状元になれば、それこそ大変で、状元を輩出した街中が沸き立ち、まるで天下を取ったようであったと言われます。
何日も独房のような部屋に閉じ込められて作成した答案用紙は一人分の答案でもかなりの厚さになる。進士に及第した2~300人の答案用紙が積み上げられると、ちょっとした高さになるでしょう。状元、すなわちトップ及第者の答案は、その答案の山の一番上に、うやうやしくのせられるのです。
一人の答案を一巻とする。300巻の答案の上にのった状元の答案は、まさに=巻を圧す=と形容されてよいのである。
これが、壮大で深遠な意味が込められている<圧巻>です。
野球、ゴルフのそれぞれの美技は、それはそれで立派なものに違いがありません。
がしかし、科挙制度の長大な歴史と、壮絶な試験地獄を考えるとき、軽々に<圧巻>と言う言葉は使ってほしくないというのが、私の心境なのであります。
H29年10月